喫煙率の社会格差は縮小していない ~格差を考慮した喫煙対策を~(東京大学大学院医学系研究科・医学部)

発信日:2020/07/08

 喫煙率の社会格差の経年変化を国民生活基礎調査のデータを用いて分析した東京大学大学院医学系研究科社会医学専攻公衆衛生学分野の田中宏和客員研究員、小林廉毅教授、オランダ・エラスムス大学医療センターのヨハン・マッケンバッハ(Johan P. Mackenbach)教授の共同研究結果。2020年6月27日に「Journal of Epidemiology」(オンライン早期公開版)に掲載。
 厚生労働省の許可を受け国民生活基礎調査の匿名化データ(各年度約70万人分)を2001 年から2016年までの3年毎に職業階層・教育歴別に区分。職業階層は国際比較に用いられるErikson-Goldthorpe-Portocarero(EGP)階層分類を用いて、「管理職・専門職など」「事務職・販売職・サービス職など」「非熟練労働者」「農業従事者」「自営業者」の 5つに区分。教育歴は「中学卒業者」「高校卒業者(専門学校を含む)」「大学以上卒業者(短大・高専を含む)」の3つに区分。喫煙の質問項目に対して「毎日吸っている」と「時々吸う日がある」の回答を喫煙ありとし、喫煙率を職業階層・教育歴別に算出し、経年変化の分析のために年齢調整を行った喫煙率を算出して比較検討。教育歴は25-64歳と65-94歳の2群について男女別に2010年から2016年の変化を分析。
 全体的な喫煙率(25~64歳)は、2001から2016年の間に男性で56.0%から38.4%、女性で17.0%から13.0%に減少。
 職業階層において「管理職・専門職など」と「非熟練労働者」を比較すると、男性で2001年に喫煙率の差は11.9%(95%信頼区間:11.0-12.9)、比は1.24(95%信頼区間:1.22-1.26)であったのが、2016年に差は14.6%(95%信頼区間:13.5-15.6)、比は1.45(95%信頼区間:1.41-1.49)となり、全体の喫煙率は低下しているが職業階層間での格差は拡大していた。
 教育歴において「中学卒業者」と「大学以上卒業者(短大・高専を含む)」を比較すると、男性で2010年に喫煙率の差は27.0%(95%信頼区間:25.6-28.5)、比は1.79(95%信頼区間:1.74-1.85)であったのが、2016 年に差は30.0%(95%信頼区間:28.4-31.7)、比は2.05(95%信頼区間:1.98-2.12)となり、格差は拡大していた(上図参照)。職業階層・教育歴の人口構成を考慮した分析(Slope Index of Inequality、Relative Index of Inequalityなど)でも同様に格差の拡大を示す変化が認められた。女性では、人口全体の喫煙率は低下しているものの喫煙率の社会格差は縮小していないことが明らかになった。また、男女とも若い世代(25-34歳)で、より大きな社会格差のあることが確認された。
 報告者は「わが国では喫煙の社会格差縮小に向けた目標値の設定と公衆衛生上の施策がなく、このままでは健康格差が拡大する懸念がある。したがって、わが国の喫煙対策では全体的な喫煙率の低下のみならず、喫煙率の社会格差縮小の目標設定や喫煙率が高い集団に的を絞った禁煙補助策などについても議論が必要。また、企業の採用活動等において受動喫煙防止や生産性の観点から非喫煙者を選好または優遇する動きがあるが、本研究で示されたように喫煙率の社会格差が特に若い世代において存在することを考慮した慎重な採用方針の議論がなされるべきであると考える。本研究はわが国における喫煙率の社会格差が縮小していない傾向を明らかにするとともに、将来の健康格差を予防・縮小するための喫煙対策の重要性を改めて示唆するものである。今後の展望として欧米諸国との国際比較を行い、わが国のおける喫煙率の社会格差の特徴やその要因の分析を進め、健康格差縮小のための施策につなげていきたい」とまとめている。

東京大学大学院医学系研究科・医学部 広報・プレスリリース
 「喫煙率の社会格差は縮小していない ~格差を考慮した喫煙対策を~」(PDFファイル)
 https://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20200627.pdf

メニューに戻る